アレクシス・アルゲリョ

私が今まで見た選手の中で最もスタイリッシュで、パーフェクトでしかも絵になる選手をあげろといえば彼以外いないと思うほどのスーパーボクサー。ニックネームはニカラグアの軍艦。あるいは痩せっぽちの破壊者。世界王者になってからのほとんどの試合を(ダイジェストを含む)みましたが、これほど相手を完璧かつ芸術的、さらにエレガントに倒していった選手はいないと思うほど。まさに華麗なる倒し屋という表現がぴったりでした。

ニカラグアというボクシング小国に生まれながら、その卓越した技術とキングコングをも倒すといわれた破壊的な強打に相反するような、俳優クラーク・ゲーブル張りの甘いマスク、スリムな178cmの長身、紳士的な振る舞いは優雅ささえ感じさせました。

彼が最初に王者となったのはフェザー級。相手はKOアーチストと呼ばれたルーベン・オリバレス。この強打者を13R芸術的な右アッパーでKOし王座獲得。体重57kg足らずのやせっぽちの強打者はその後の防衛戦でその恐るべき強打を炸裂させて挑戦者達をマットに沈めていきました。

彼は日本に1度だけ試合にきています。相手はロイヤル小林。当時18勝(16KO)無敗という豪打のホープでした。しかし、来日した王者の練習を見た記者団がその強打に度肝を抜かれた。サンドバックを叩く音がまるで聞いた事もないような音を立ててうなる。しかも普通は前後に揺れるのが上下に縦揺れするほどの衝撃。この時点でとんでもない王者が来日したことを悟ったようでした。相手の小林は、一向にそんなことを気にせず絶好調でリングに上がったのですが、試合が始まると試合を見ていた誰もが(当の小林が一番だったと思うが)その強打に目を見張ったのでした。スピードに乗った、しかも切れ味のすごい重いパンチが炸裂する。小林の豪打は完璧にブロックされ入り込む隙すらない。玉砕覚悟のラッシュも王者の巧みな技術で空回り。対照的にジャブをもらう度に小林の顔面、頭にこぶができるほどの破壊力。(小林氏は後にその時のパンチを「40cm四方の氷の塊で殴られているようだ」と評した)打たせず打つ。その代表的な試合だった。トドメとなったジャックナイフのような左わき腹打ちは小林の身体が一瞬宙に浮くほどの破壊力だった。

こうしてフェザー級の強豪達を次々にマットに沈め、相手がいなくなると1階級上の12度の防衛を続けていた名王者アルフレッド・エスカレラをKOして2階級制覇。さらに防衛戦でも後の王者たち(チャコン、ナバレッテ、エドワーズ、リモン等)あるいは王者以上の実力者(カスティーヨ、アルカラ等)達を次々とマットに沈め、更にはライト級では安定王者のジム・ワットを破り3階級制覇を成し遂げた。

ライト級でも挑戦者達を次々とマットに沈めたアルゲリョが次に目指したのは当時前人未到の4階級制覇。しかも、相手は当時36勝(34KO)無敗の荒鷲の異名をとったアーロン・プライア-。JR.ウェルター級史上最強と言ってもいいほどの名王者だった。もう1人の王者は彼よりもはるかに弱い、私ですら記憶してないほどの3流王者。しかし、あえて記録にこだわるより強敵を粉砕してこそ真の王者と考えるアルゲリョはプライア-に挑戦。この試合は後々まで語り継がれる大激戦となった。アルゲリョの強打を浴び、吹っ飛びながらも猛然と打ち返すプライア-、猛烈なラッシャーのプライア-が見事なアウトボクシングでアルゲリョを攪乱、今までなら当の昔に病院送りにしてるほどの強打を打ち込んでもプライア-はギブアップしない。それどころかさらにスピ-ドにのった連打すら返してくる。その連打は手元で変化してアルゲリョの完璧なディフェンスを徐々に崩していく。いかにプライア-がタフとはいえこれだけアルゲリョの強打を浴びて倒れないのは少し異常だと思い始めた14R。ゴング開始と同時にまるで1Rのような勢いでプライア-が猛然とラッシュする。ついに防御を崩されたアルゲリョが連打にさらされ、立ったまま失神して担架で運び出された。悪夢のような瞬間だった。14R開始直後プライア-陣営がなにやらおかしな物をプライア-にかがせてその直後にヘロヘロだったプライア-が野獣のように襲いかかった、という談話が発表されたが、それでもプライア-がKOしたと言うのは紛れもない事実。

しかし、不屈のアルゲリョは1年後雪辱を誓い、ボクサー生命をかけて再びプライア-に挑んだ。結果は若く、更にパワーアップしたプライア-に叩きのめされてKO負け。単に記録への挑戦なら
プライア-などに挑戦しなくても良かったのだが、彼のプライドがそれを許さなかった。ボロ雑巾のようにプライア-に粉砕されながらもプライア-をあと1歩のところまで追い詰めた老いたアルゲリョに激情の生き様を見せられた感じがしました。まさに彼こそ真のボクサー。

後にレナードやハーンズ、あるいは最近ではデラ・ホーヤなどが記録狙いで弱い王者に勝ったり、あるいはその政治力で5階級制覇をしたなどと記録ばかりがもてはやされていますが、私としては彼らは認めたくない。「おまえら、本当に認められたかったらアルゲリョみたいにちゃんと防衛戦をこなしてから強い王者とやれ」と言いたい。真の王者とは真に強い王者を倒し、しかも最強の挑戦者達をマットに沈めてこそ評価を受ける。唯一の心残りはあの「石のコブシ」ロベルト・デュランとの対戦が実現しなかったことです。2人とも全盛期だっただけに是非見たかった。

アレクシス・アルゲリョ戦力分析

長所
(1)とにかくパンチが強い。切れ・破壊力・タイミングすべてをとっても超一級品。また、徐々に階級を上げたせいか、パンチが衰えるどころか階級が上がっても、桁外れの威力を誇った更に多彩なパンチをコンビネーション・カウンターでうて、すべてが一打必倒の破壊力を持っていた。

(2)防御技術が卓越していた。パンチを見切る目を持っていてたのにもかかわらず、鉄壁のブロックで相手のパンチを完璧にブロックしていた。しかも攻防が一体化していたため、相手が捨て身で攻撃してきても防御と同時に強烈なパンチが炸裂していた。

(3)体格的に図抜けていた。身長が177cmあり、しかもリーチは188cm。胴が短く下肢が細くて長い。しかも身体の割には腰が大きく、安定していて、どんな時にもバランスを崩すことはなかった。最後の階級になったJr.ウェルター級でもその長身さは目を見張るものがあった。肘を折りたたんでわき腹を隠すと顔まで隠れるほどの胴の短さ、顔の小ささはボクシング界でも例を見ないほどの恵まれた体格だった。さらに、あまり打たれることはなかったが、プライア-の猛打に14Rまで耐え抜いたことを見ると、かなりのタフネスだったと思う。

(4)勝負に対する闘志がすごい。その甘いマスクから「リングの貴公子」という仇名がついていたがそれは勝負が終わってからのこと。実際は禿鷲のように獰猛で相手を何が何でも倒すという
ものすごい闘志にあふれていた。実力差がある場合は理詰めで相手を芸術的に倒していたが、相手が強かったり、あるいは不覚にダウンを喰らった時など、それ以上やったら相手が死ぬぞ!とツッコミを入れたくなるほど獰猛な選手だった。

(5)相手を自分のペースに引き込むことが天才的にうまかった。例えばジャブなどはそれほどスピードがないように見えるので相手が接近していくと、その数倍はあるスピ-ドの強打をいきなり放つ。いわゆる誘いと言うか罠を仕掛けるのが天才的。常に自分のペースで戦うことができるので相手はなすすべもなかった。

短所
(1)足を使って逃げ回る選手に不覚を取ることが多かった。エルネスト・マルセルやビロマール・フェルナンデスなどアルゲリョの実力からしたら、負けるはずがないと思われた相手に足を使われてポイント負けするケースが多かった。スロースターターの為追いきれなかったのか?

(2)フットワークのスピードが年々落ちてきた。フェザー級では軽快だったフットワークが晩年のライト級には使わなくなったのか、使えなくなったのか?プライア-戦ではプライア-のフットワークに翻弄されたのが敗因の一つ。

(3)強打のラッシャーに弱かった。あれほどの強打を誇りながらオリバレス、ラミレスには大苦戦しプライア-にはKO負けした。3人とも、ものすごい実力派だがアルゲリョの実力を考慮するとタフなラッシャーは最も苦手なタイプだったかもしれない。

生涯戦績 83勝(67KO)7敗

たこです

たこです

迷惑かけてありがとう

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